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『け』 携帯電話 ケイタイ-デンワ

わたしが物心ついたときに家にあるのは黒いダイヤル式の電話機だった。
社会に出た頃でさえ携帯電話を持っている人は少なかった。

初めて一人暮らしをはじめたとき
狭い部屋に引いた一本の電話がわたしと外を繋いだ。
そこでわたしは誰にも気兼ねなく電話を受ける空間を手に入れた。

それでも
電話を掛けるときにはかなりの気を使わざるを得なかった。

大抵の家に電話は一台しかなかった。
(それは今でもあまり変わっていない)

玄関であったりリビングであったり
それぞれの家での電話の存在は
publicなものだった。

学生時代に自分専用の電話を持っているものなどほとんどいなかった。
一人暮らしをしていて部屋に電話を引いている友人はもちろんいた。
でも
自宅から通学している友人も
学生寮に入っている友人も
電話口まで呼び出してもらわなければ話はできなかった。

誰かと話をするために それ以外の人と話さなければならない確立は高かった。

自宅から電話を掛けるときも、そこにはpublicな空間があった。

友達と他愛の無い話をするときも
単なる事務的な連絡をするときも
常に回りを意識し、コトバを選ばなければならなかった。

家族の寝静まったころあいを見計らってこっそりとリビングに入りこみ、
時計を見ながら 電話の前で待ち合わせ、1callであわてて受話器を取り上げる。

大切な人と

思いをこめた言葉をささやきあう僅かな時間を無駄にしないためにも
わたしはコトバを慎重に選んだ。

そんな時を過ごしてきたわたしの心に残る歌がある。
昨年来日していたスティビー・ワンダーが出演した番組で唄われたこの曲を
貴方はどんなふうに聞いただろうか

      『 I just call to say I Love You 』


若い方ならCMで聞いたことのある曲だなぐらいにしか感じなかったかもしれない。

          ‘‘新年でも、何の特別な日でもない
                 ただ、貴方を愛していると伝えるだけの電話”


こんな電話を掛けることを ためらうしか出来なかった自分を
今でも切なく思い出す。

そして

だれもが携帯電話を持つようになった今。
電話はplivatな存在になった。

簡単に相手につながる言葉は 簡単にその場に解けてゆく。

口に出す言葉だけではない。

こうして書いた言葉まで 簡単に 相手に届くようになった。
簡単に届いた言葉は次々と重なり 新しい言葉の中に埋もれてゆく。


貴方のことを考え
想い
伝えてきたコトバ


あまりにも手軽になった言葉たちが
目の前を飛び交っている。


わたしでさえ

携帯できるコトバを簡単に 貴方に伝えているかもしれない。


それを許してもらえるのならば
たった一通のコトバを大切に 携帯の中に残してくれている貴方に届けたい。


         『 I just call to say I Love You 』



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by fusyou-kumahachi | 2006-05-12 04:01 | ututu

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